1-1 不動産所有権の放棄

不動産の所有権を放棄できるかどうか、現行法には明確な規定がありません。つまり、放棄の仕方を誰も知らないので、現在は不動産の所有権放棄は出来ないと言っても過言ではないでしょう。

2021年4月21日、所有者不明土地関連法案が成立しましたので、2023年4月27日からは、一定条件のもとで相続を放棄することが出来るようになります。

今現在、所有権放棄は出来ないのですが、不動産所有権を手放すために出来ることとして、以下の方法が検討されることもあります。

放棄

自治体に寄付する

この選択は現実的には難しいです。
資産的価値がある不動産、有効活用が出来る不動産であれば、自治体によっては寄付を受け付けてくれる可能性はありますが、そうでない場合、自治体の負担が増す(税金が取れなくなる、管理費用が掛かる)だけなので、基本的に寄付を受け付けてくれません。利益がなければ、誰も近寄ってこないのです。

「柿も青いうちは鴉も突き申さず候」

今の日本の情勢を考えると、現在資産価値の低い土地が、資産価値の高い土地に変わることはまずありません。柿が紅く実ることはないため、他の方法を考えなければなりません。

相続の放棄

相続時期に合わせて、不動産の所有権を放棄する方法があります。
ただし、他の財産(預金等)を相続しながら、不動産だけを相続放棄するということは認められていませんので、かなり限定的な使いどころになります。また、相続放棄をしただけでは、当該不動産と無関係になれないという問題も実際にはあります。

民法940条1項「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となったものが相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない」と定められていますので、相続人全員が相続放棄をしていた場合には、当該不動産の管理義務が発生します。そのため当該不動産が老朽化等で倒壊するなどして、近隣に迷惑をかけた場合は、責任を取らされる可能性があるのです。

当該不動産と本当に無関係になるためには、相続人が自己の負担をもって相続財産管理人を選任しなければなりません。選任された相続財産管理人が相続財産の清算等を行い、残った相続財産を国庫に引き継げば終了ですが、費用と手間が掛かりますので、実際に実施しているケースは少ないでしょう。

なお、法令改正があり、2023年(令和5年)4月1日から

(相続の放棄をした者による管理)
 第940条 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。


となりますので、占有していない時は、管理義務を負わされることも無くなりそうです。

その他の方法

完全には合法とは言い難い方法で、所有権を手放すことが出来なくはありませんが、それは秘しておきます。

民法の規定

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