1-2 意思能力喪失(認知症等)への対応

不動産所有者の意思能力が無くなると、当該不動産の売買、賃貸、管理、その他諸々がスムーズに出来なくなってしまうという問題があります。例え、不動産所有者の実の子供であっても自由には出来ません。

親が施設に入らなければならない事情があり、そのために実家を処分しなければならない事情が迫っている相続人や親族は、不動産所有者の意思能力がそろそろ危ないと感じ始めたら、色々と対処を考えておいた方がいざという時の手続きがスムーズに進みます。

意思能力
法定後見(成年後見)
※法定後見は「後見」、「補佐」、「補助」に分かれていますが、「後見」についての説明です。
制度利用に際しての
本人の判断能力
  • 本人の判断能力が無くなった状態で利用します。意思能力が無くなった状態で実施できる手段は法定後見のみになります。
後見人の基本的な
業務内容
  • 預貯金の入出金チェックと、必要な費用の支払い
  • 不動産管理
  • 株式、有価証券の管理
  • 税金の申告・納税
  • 医療、介護に関する事項
  • 住居の確保に関する事項
  • 原則としてすべての行為について、代理が可能です。
手続きと費用
  • 四親等以内の家族から家庭裁判所に「後見開始申立」を行います。
  • 申し立てに係る費用は10万~30万円くらい。
  • 専門家が成年後見人になる場合、月額費用の目安が2万円。(資産が多い場合は数万円増加します。基本的には本人[被後見人]の財産から支払われます。)
メリット
  • 家庭裁判所のチェック機能が働くため不正が行われにくい。
  • 身上監護権がある。
    ※身上監護権とは介護サービスの締結や、施設の入所手続き、医療費・介護費の支払いなどのことです。
  • 後見人は本人が行った法律行為を取り消すことが出来ます。
デメリット
  • 誰に何を頼むか本人が決められない。
  • 財産の自由な運用が出来ない。
  • 財産を本人以外の人のためには使えない。
  • 死後事務処理は委任出来ない。本人死亡で終了します。
  • 後見人に家庭裁判所への報告義務が生じる。
  • 手続きに時間がかかる。
任意後見
制度利用に際しての
本人の判断能力
  • 本人の判断能力がある状態。ただ実際に開始されるのは、本人の判断能力が低下した後からになります。
後見人の基本的な
業務内容
  • 法定後見と同様の業務内容から、業務を選択する。
手続きと費用
  • 本人を「委任者」、引き受ける方を「任意後見受任者」とし、公正証書で契約を締結します。
  • 本人の判断能力低下後、家庭裁判所で「任意後見監督人」を選任してもらうための申立てを行います。「任意後見監督人」の選任後、任意後見契約の効力が生じることになります。
  • 「任意後見監督人」の申し立て費用は10~20万円程度です。
  • 「任意後見人」への報酬は「任意後見契約」に定めておくことが一般的です。家族になると思いますので無報酬でも大丈夫です。
  • 「任意後見人監督人」が専門家になる場合、月額の報酬目安は3万円~6万円くらいとなります。
メリット
  • 誰に何を頼むか本人が決めることができます。
  • 家庭裁判所のチェック機能が働くため不正が行われにくい。
  • 身上監護権がある。
  • 契約内容が法務局で登記されるので、任意後見人の地位が公的に証明される。
デメリット
  • 公正証書による任意後見契約が必要。
  • 後見人は本人の判断能力が衰えるまで活動できません。
  • 死後事務処理は委任出来ない。本人死亡で終了します。
  • 後見人に家庭裁判所への報告義務が生じる。
  • 本人が行った法律行為の取消権がない。
備考
  • 任意後見は本人の意思能力が喪失してから効力が発生するため、意思能力が喪失する前から効力が発揮できる見守り契約や、財産管理委任契約を同時に締結することが多い。
財産管理委任契約
制度利用に際しての
本人の判断能力
  • 本人の判断能力がある状態。
後見人の基本的な
業務内容
  • 金融機関の口座の管理
  • 身の回りの物品の購入
  • 所有している不動産の家賃の受け取り
  • 公共料金や介護サービス費用の支払い
  • 住民票や戸籍謄本などを代わりに取得
      等など、比較的自由に決められる
メリット
  • 誰に何を頼むか本人が決められる
  • 本人の判断能力が衰える前から有効に契約の効果を発揮することができる
  • 特約で死後の処理を委任することが可能。
  • 契約に当たって公正証書の作成は不要
  • 身上監護権を付与することが可能
デメリット
  • 公正証書が作成されるわけではなく、後見登記もされないため、社会的信用が十分とはいえない。
  • 受任者を監督する機関がない。
  • 本人の法律行為を取り消しする権利がない。
  • 金融機関によっては手続きが難しい。
  • 受任者単独での不動産処分は難しい。
民事信託(家族信託)
制度利用に際しての
本人の判断能力
  • 本人の判断能力がある状態。
後見人の基本的な
業務内容
  • 財産管理
メリット
  • 誰に何を頼むか本人が決められる
  • 本人が健康な時は勿論、判断能力が衰えてきたときや、死亡後も含めた対応が可能。
  • 高齢の親が詐欺にあいにくくなる。
デメリット
  • 財産を任せられる信頼できる家族や親族の存在が不可欠
  • 不動産の名義を変更する必要がある
  • 財産管理限定の為、身上監護は別途対応が必要
  • 受託者を監督する機関が無い。
  • 信託財産の損失と、固有財産の利益の損益通算が出来ません。
費用
  • 依頼をする専門家によりますが、不動産がない場合で30万円程度。不動産がある場合で60万円程度かかると言われています。
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