4-7 意思能力の有無と売買契約の無効

Q【売主の子】

私には老齢の親がいるのですが、知らないうちに、不動産屋さんと土地売買契約を締結していました。

引渡しはまだですが、売買契約書を見ると、売主である親に不利な条件がついているだけでなく、相場よりもだいぶ安い売買価格になっています。

親に話を聞いてみても、何で売ってしまったのか分かりませんし、そもそも売った認識もないようで、事情がはっきりしません。

不動産屋さんと話をしてみても、「売買契約は既に成立しているので、期限までに決済に応じてください」としか言いません。

このまま、土地を引き渡さなければならないのでしょうか?

意思能力
A

当事者に意思能力がないことを理由とする売買契約の成立の否定

例えば、当事者が重い認知症に罹っているとか、アルツハイマー等に罹っている状態で、売買契約時に『意思能力』が無かったと判断出来る状況であれば、裁判を起こすことで、売買契約の成立を否定できる可能性はあります。(売買契約締結時に受診をしていなくても、売買契約締結後の受診で、そう判断された場合でも可能性はあります)

当時者に『意思能力』があったかどうかの判断要素については、例えば「売買価格が相場に比べて著しく低くなっている」「契約条件が売主に著しく不利になっている」「引っ越し先が決まっていないのに、自らの住居を売ってしまっている」等、正常な判断力を有していれば、そんな契約内容にはしないだろうといった事情や、「当事者と会話が成立するかどうか」「当事者と接触した他の人の意見」等が勘案されて判断が行われます。

認知症やアルツハイマーの診断が出ているからといって、必ず売買契約を無効に出来るとは限りませんので、裁判を起こすのであれば良く検討が必要です。

公序良俗違反を理由とする売買契約の成立の否定

高齢者である当事者の事理弁識能力や、判断能力が、何らかの事情によって低下しているような場合においては、当事者の意思能力の欠如が認められない場合でも、公序良俗違反を理由として、売買契約の成立を否定することが出来る可能性があります。

判断要素としては、当事者に「不動産を売買する必要性や合理性が無い」場合や、「当事者が一方的に不利となる売買契約を締結してしまっている」ような事情が勘案されて判断が行われます。

不動産適正取引推進機構のHPへ
東京地裁H21.11.10 認知症により事理弁識能力の低下が認められるものの、判断能力は保持していたと認められた事例
東京地裁H21.2.25 他者とのコミュニケーション能力から、アルツハイマー発症している所有者に意思能力があると判断された事例
東京地裁H21.10.29 認知症により意思能力がなかったとして、転売契約の無効と所有権移転登記の抹消登記が認められた事例
東京地裁H20.12.24 売主に意思能力がないとして、不動産売買契約が無効とされた事例
高松高裁H15.3.27 内容及び契約締結の経過に照らし、公序良俗に反し無効であるとされた事例
東京地裁H27.1.14 意思能力は認められたが、公序良俗に反し無効であるとされた事例
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