1-2 買付証明書を提出した後に、キャンセルすることは出来るか?

Q【買主】

買主です。

家を建築するための土地を探していたところ、広告で感じの良い物件を見つけたので、広告を出していた仲介業者に声を掛けました。仲介業者に直接会ったところ、広告の土地を熱心に勧められましたので、言われるままに『買付証明書』を提出しました。

しかし、その後すぐにもっと条件の良い土地が見つかりましたので、そちらの土地を購入したくなってしまいました

既に仲介業者に『買付証明書』を提出してしまっていますが、今から売買契約の締結を断ることは出来るのでしょうか?

また、売買契約の締結を断った場合、慰謝料や違約金を支払わなければならないのでしょうか?

キャンセル
A

買付証明書の法的な性質とは

『買付証明書』は、購入希望者の意思表示に過ぎませんので、購入の申込みの撤回(キャンセル)は可能です。売買契約が成立しているわけではありませんので、原則として、慰謝料や違約金なども発生しません。

仮に売主から、『売渡証明書』が出されていたとしても同じであり、それらの書類のやり取りがあっただけでは、やはり売買契約が成立したと見なされない可能性が高くなります。

つまり、その段階に至った後でも、買主が購入の申込みをキャンセルすることは可能ですし、逆に売主の方から売り渡しの意思表示をキャンセルすることも可能です。

実務上の話を一つ

『買付証明書』に法的な拘束力は無いとはいえ、一度購入の意思表示をしたことに変わりはありませんので、売主にはお詫びしてキャンセルするのが良いと思います。

また、キャンセルを申し出た場合、中には「売買契約は民法で口頭で成立することになっている」と主張する売主や仲介業者がいるかもしれませんが、不動産の売買の場合、価額が高額になることや、取引内容を細部まで決める必要があること、また、通常は売買契約書の作成が予定されていることなどから、民法の定めと異なり、口頭だけで売買契約が成立したと見做されるケースは極めて稀となっています。
そのため、相手方の「買付証明書により契約が成立した」という主張は、一般的には認められない主張になります。

契約締結上の過失という考えもあります

買付証明書提出後のキャンセルについては、原則として違約金が発生しないと先述していますが、例外があります。

売買契約が成立していなくても、長期間に渡り契約条件を交渉して殆ど合意に至っていたなど、相手方が契約の成立を期待するのも無理からぬ事情がある場合や、あまりに理不尽に交渉を打ち切った場合など、信義則に反するケースでは、契約締結上の過失が認められ、相手方から損害賠償を請求される可能性があります。

売買の基礎知識1-5『買付証明書とその効力

売買の基礎知識2-7『売渡承諾書とその効力

不動産適正取引推進機構のHPへ
東京地裁R2.2.18 売買契約が締結されることを前提に費用支出をした購入希望者の所有者に対する損害賠償請求が棄却された事例
1987年1月号 買付証明書と売渡承諾書の交付と売買契約の成否
福岡高裁H7.6.29 分譲マンション用地の買主業者の契約締結上の過失
不動産流通推進センターのHPへ
2007年4月掲載 売渡承諾書と買付証明書の効力
全日本不動産協会のHPへ
2016年02月号掲載 買付証明書の法的効力
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