3-9 購入した土地上に従前存在していた建物で起こった火災の説明(告知)

Q【買主】

土地の買主です。

土地購入の売買契約を締結し、決済を終えました。土地の引き渡しを受けましたが、そのすぐ後になって、近所の方から「昔、その土地上にあった建物で火災事故が発生したこと」「火災で全焼した建物が現在取り壊されていたこと」を聞きました。

売主や仲介業者は、この火災事故について知っていたにも関わらず、何も教えてくれませんでした。

「告知義務が無い」と主張していますが、本当にそうなのでしょうか。過去のこととはいえども、売買の対象地で起こった火災事故については、説明(告知)義務があるのではないでしょうか?

売主や仲介業者に対して、売買契約の解除や、損害賠償請求をすることは出来ませんか?

火災
A

売主や仲介業者の責任を追及出来るのか否かについては、売買契約書の特約の内容、過去の火災事故の程度、火災事故からの経過年数、当該火災が心理的瑕疵に該当するかどうか、仲介業者が火災の事実を知っていたのかどうか等によって変わってきます。

火災によって住人が死傷したかどうか、建物が全焼したのか、火災が何年前に起こったのか、建物を取り壊して売買するのか、ケースごとに分けて考えていきます。

過去に火災にあった中古住宅をそのまま売買する場合

建物に過去の火災の具体的痕跡が残存している場合、火災による焼け跡は通常の経年変化を超える毀損となりますので、物理的な瑕疵に該当する可能性があります。また、住人が火災で亡くなっているような場合は、時間的な経過も考慮されますが、心理的瑕疵にも該当する可能性があります。

物理的な瑕疵、または心理的な瑕疵であると判断される場合、売買契約書の契約不適合責任に関する特約で、売主の契約不適合責任が制限(免責含む)されていない限り、買主は売主に対して、追完請求(修補請求)、代金減額請求(追完請求に売主が応じなかった場合)、売主に帰責事由がある場合には損害賠償請求、契約不適合(瑕疵)が軽微な時を除いては、売買契約の解除も主張することが出来ます。

なお、売主が火災の事実を知りながら隠していた場合は、契約不適合責任を免責する特約があったとしても、民法572条により、売主に対して契約不適合責任を追求することが出来ます。

改正民法まとめ1-5『民法改正で、瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わります

売買の基礎知識4-2『契約不適合に関する特約

過去の火災が物件の瑕疵と認定出来る場合、買主は仲介業者に対しても責任を追及できる場合があります。

物件の瑕疵は、買主の購買意思に影響を与える重要な事項と考えられますので、仲介業者には買主に説明(告知)すべき義務が生じます。

そのため、仲介業者が買主に何も説明せずに取引を行ったのであれば、仲介業者には、債務不履行責任や不法行為責任があると考えられます。
ただし、仲介業者が一般的な注意義務を払っていても、火災の事実を知ることが出来なかったと判断された場合は、仲介業者への責任追及は認められません。

建物を取り壊して更地で売買した場合(火災で死者が出ている場合)

火災による死者が出ている場合、事故発生からの経過年数、近隣住民の記憶の度合などから、心理的瑕疵に該当するか否かが判断されることになります。

法律上の明確な線引きはありませんので、過去の判例等を参考にして、売主や仲介業者と協議をして解決していくしかないと考えられます。

また、仲介業者について、一般的な注意義務を払っていても、火災の事実を知ることが出来なかったと判断された場合は、仲介業者に説明義務違反(債務不履行責任や不法行為責任)があるとは言えませんので、後は売主の告知義務違反や、契約不適合責任を追及出来るかどうかとなります。

建物を取り壊して更地で売買する場合(火災で死者が出ていない場合)

死者を出さなかった火災事故で、既に建物の取り壊しが完了している場合、裁判例等が見当たりませんが、一般的に考えて心理的瑕疵には該当しないと考えられます。もちろん建物がないので、物理的瑕疵にも該当しません。

瑕疵が無いと判断される場合、売主や仲介業者にそもそも説明(告知)義務がないものと考えられますので、責任追及は難しいと言えるでしょう。

なお、例外的に、買主が「この土地で過去に火災などがあったことはないか?」などの特別な質問を行っていた場合は、仲介業者に説明義務が発生することもあります。

不動産適正取引推進機構のHPへ
東京地裁H16.4.23 過去の建物火災の説明義務違反が認められた事例
東京地裁H26.8.7 17年前の火災事故(死者あり)は土地の瑕疵に該当しないとされた事例
東京地裁H22.3.8 3年前の火災事故(死者あり)は土地の瑕疵に該当するとされた事例
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