1-5 売主がローン特約に基づく契約解除を認めてくれない
【買主】中古住宅の買主です。
売買契約を締結した後、銀行に住宅ローンの本申し込みを行いましたが拒否されてしまいました。そのため、売主に対してローン特約に基づく解除を申し出ましたが、「真摯な申し込み義務を果たしていない」からとして、手付金の返還を拒否されてしまいました。
金融機関には普通に申し込んで、断られたのですが、話は平行線のままです。
どのように対応したら良いのでしょうか?
真摯な申込義務とは?
買主には、売買契約書のローン特約に定められた「金融機関」、「申し込み金額」、「期限」などを守って、融資が受けられるよう努力する義務があります。これがいわゆる「真摯な申込義務」と言われるものです。
売買契約書のローン条項において、借り入れの条件について具体的に取り決めがなされていない場合については、買主は合理的な融資金額を、合理的な数の金融機関に申し込み、融資が受けられるよう努力する必要があります。
買主が、真摯な申込義務を果たしていないと認められる場合、ローンが下りなかったとしても、ローン特約による白紙解除は原則として認められません。
真摯な申込義務に対する過去の裁判例の考え方
過去の裁判例では、買主の主観的なことが原因で、金融機関から融資を断られた場合(そもそもローンを申し込んでいない。金融機関に虚偽の申請をしている。金融機関から提示された融資条件を守らなかった等)は、真摯な申込義務を果たしていないと判断されやすくなっています。
一方、客観的なことが原因で、金融機関から融資が断られた場合(買主の年齢制限や資力不足等)は、真摯な申込義務を果たしたと認められやすくなっています。
売主が他の金融機関でも申し込みをするよう勧めてきたら
売主が勧めてきた金融機関がノンバンクで当初の想定より利息が高かったり、ローン特約の解除期限を過ぎてしまう等の理由があれば、断っても差し支えないと考えられます。
実務上の対応
売買契約書の条項を守って、融資の申込みを行っている場合、融資の全部または一部が未承認となった時点で、買主はローン特約に基づいて契約を解除することが出来ます。
売主がローン特約に基づく白紙解除に応じてくれない場合は、類似の裁判令を示すなどして、粘り強く交渉してみることです。それでも解約に応じてくれないようなら、あとは裁判をするしかありません。
売買の基礎知識4-3『売買契約書の内容「ローン特約(融資特約)」』
売買のトラブル事例1-9『決済期間を延長した後のローン特約の適用の可否』
(1)ローン特約が認められた事例 | |
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東京地裁H31.1.9 | 期日までに事前審査しか通らなかった事例 |
東京地裁H28.11.22 | 契約書記載の申込金額を超えた申込みをした事例 |
東京地裁H28.4.14 | 法人間取引でローン解約が認められた事例 |
東京地裁H24.4.27 | 建物取り壊し費用と新築費用も含めて融資申込みをした事例 |
東京地裁H23.6.22 | 買主の客観的資力不足により融資が否定された事例 |
東京地裁H16.7.30 | 融資申込金融機関の都市銀行等にノンバンクは含まれないとした事例 |
福岡高裁H12.8.31 | 意思表示をしていなくても期間が到来した時に解除になるとした事例 |
東京地裁H9.9.18 | 真摯な努力義務を果たしているされた事例 |
(2) ローン特約が認められなかった事例 | |
東京地裁R3.8.10 | 保証人が立てられないことを理由にローン承認取り消しとなった買主のローン特約による解除が否定された事例 |
東京地裁H26.4.18 | 事業用物件の売買で融資条件に沿った申込みをしなかった事例 |
東京地裁H22.3.16 | ローン解約に基づく解約の意思表示をしていないとされた事例 |
東京地裁H10.5.28 | 共同買主の一人が融資申込みの連帯保証を拒んだ事例 |
東京高裁H7.4.25 | 解除期限が定められていない場合でも相当期間に解除権を行使する必要があるとされた事例 |
水戸地裁H7.3.14 | 買主の随意の判断で融資を受けなかった事例 |
福岡高裁H4.12.21 | 融資利用特約の合意が無かったとされた事例 |