1-1 賃貸借契約の締結直前のキャンセル

Q【賃貸人】

賃貸マンションの大家をしています。

仲介を依頼していた宅建業者から「入居申込みがありました」「入居審査も問題ありません」との連絡を受けました。

その後、仲介業者から「賃貸借契約を締結する日が決まりました」との連絡を受けたため、予定を空けていたのですが、契約締結日の前日になって突然、入居を申し込んだ人が「他に良い物件が見つかったので賃貸借契約は止めます」と言って、キャンセルしました。

既に契約締結日も決まっており、部屋を借りるという意思表示も受けていましたので、入居申込者には、賃貸借契約を締結する義務があるのではないでしょうか?

また、契約締結するということだったので、仲介業者には広告での貸室募集を取り止めてもらっており、他の入居希望者も断ってもらっていました。このまま賃貸借契約が締結されなかった場合、入居申込者に損害賠償請求をすることは出来ないのでしょうか?

賃貸マンション
A

入居申込者に賃貸借契約を締結する義務があるか?

入居申込者に、賃貸借契約を締結する義務はありません。また、賃貸人が入居者に対して賃貸借契約締結を強制することも出来ません。
契約を締結するかどうかは、当事者の意思次第です。

入居申込者に損害賠償義務を負わせられるのか?

賃貸借契約が締結に至っていない状態であれば、損害賠償請求は認められない可能性が高いと考えられます。原則として、契約が成立して初めて債権債務を負うことになるからです。

ただし、賃貸借契約の条件の折衝などの過程において、入居希望者が、賃貸人に賃貸借契約が成立することを期待させていた場合、入居希望者には信義則上、その期待を故なく侵害することがないよう行動すべき義務が生じます。

例えば、入居希望者が「部屋を絶対に借りるから、設備を特別に取り替えて欲しい」と賃貸人に要求し、実際に賃貸人がその要望通りに設備を取り替えて費用が掛かってしまっている場合。

長期間に渡って、賃貸借の契約条件の交渉を続けてきた大筋で合意したのに、入居希望者が大した理由もなく契約締結をキャンセルしたいと主張する場合等は、「契約締結上の過失」として、賃貸人から入居希望者に対しての損害賠償請求が認められる可能性があります。

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東京地裁 R1.9.3 賃借申込人が契約締結直前に一方的に交渉を破棄したことによる賃貸人からの契約締結上の過失に伴う損害賠償請求が認められた事例
東京地裁 H20.1.31 賃借人の過失が認められた事例
東京地裁 H18.7.7 賃借人の過失が認められた事例
東京地裁 H14.3.13 賃貸人の過失が認められた事例
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