3-1 過大な原状回復費用を請求された

Q【賃借人】

借主です。

賃貸借契約が終了し、貸室から退去することになりましたが、大家さんから、最初に預けた敷金(賃料2か月分)の何倍もの原状回復費用を請求されました。

自分で壊してしまった部分もあるので、その個所についての修理は当然だと思っていますが、丁寧に使っていたので、全く汚していない畳の表替えや、クロスの全面張り替え等は正直なところ納得がいきません。

貸主から言われるままに、支払わなければならないのでしょうか?

原状回復
A

賃貸人からの『原状回復費用の請求明細書』、国土交通省の作成した『原状回復ガイドライン』、『賃貸借契約書の原状回復に関する特約内容』をそれぞれ確認して、請求内容を一項目ずつ検討していく必要があります。

賃貸借契約書に、原状回復について何も特約されていない場合

原則として、賃借人が汚損、破損した場所以外は、修繕する必要も、修繕費用を出す必要もありません。清掃だけして退去するようにしましょう。故意や過失のないクロスの汚れ、畳の劣化、家具などを置いたことによる凹み、がびょうの穴等は自然損耗(経年劣化)の範囲内とされていますので、原状回復ガイドラインによれば、その費用負担は賃料を受け取っている賃貸人が負担すべきものです。

ただし、タバコのヤニや、ペットを飼っていた場合の汚れや傷は、通常使用の範囲内ではありませんので、クリーニング代や、クロスの張り替え等を出す必要があります。
賃貸人からの請求明細書を見て、明らかに通常損耗に関する請求は削除してもらうか、減額してもらうよう交渉しましょう。

賃貸借契約書に、クロスの張り替え等が賃借人の負担と特約されている場合

賃借人が故意、過失で貸室を汚損、破損した箇所については、賃借人に修繕義務があります。
自然損耗(経年劣化)に関するものについては、賃借人が裁判で無効を主張しない限り、原則として賃借人が負担することになると考えます。ただし、その場合も、原状回復ガイドラインを参考に、経過年数による減価償却を考慮してもらえるよう交渉すると、請求額が割引される可能性があります。

原状回復ガイドラインでは、クロスやクッションフロアは、6年経過で1円まで償却されていますので、入居年数によっては賃借人の負担割合が大きく減ります。また、賃貸借契約書にクリーニング費用の支払いについても特約がある場合、高すぎなければ、支払いに応じるのもやむを得ないと思います。

 ※裁判で争った場合、自然損耗分についての特約がなされていない、または特約そのものが無効とされる可能性があります。

賃貸借契約書に、自然損耗分(通常損耗分)も含めて借主負担と書いてある場合

原則、クロスの張り替えや、クッションフロアの張り替えなど、経過年数に関わらず賃借人負担となります。ただし、消費者契約に該当する賃貸借契約の場合(一般の人が居住用にアパートやマンションを借りる場合)、裁判で争えば、消費者契約法の適用を受けて、原状回復の特約自体が無効になる可能性があります。もっとも、裁判を起こすと、費用も時間も掛かりますので、まずは話し合いで妥協点を探ってみた方が良いでしょう。

消費者契約法の適用されない事務所や店舗の賃貸借契約においては、特約は有効になりますので、賃借人が負担することになっても、やむを得ないでしょう。

 参考:原状回復ガイドライン再改定版|国土交通省

不動産適正取引推進機構のHPへ
東京地裁R3.11.1 ハウスクリーニング特約は有効と認められ、また、貸主は借主に実施した報告をする義務はないとした事例
東京高裁H31.3.14 通常損耗を借主負担とする合意がないとされた事例
東京地裁H29.4.25 通常損耗を借主負担とする特約が成立していないとされた事例
東京地裁H28.12.20 耐用年数を経過したクロスの原状回復費用の一部が認められた事例
東京地裁H28.6.28 通常損耗を超える部分が借主負担とされた事例
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