7-2 賃貸物件が地震で倒壊し、入居者が怪我を負ったり死亡した場合、賃貸人が責任を負わなければならないのか?

Q【賃貸人】

賃貸アパートの大家をしています。現在も賃貸中ですが、アパートの老朽化が著しくなってきました。古い建物のため耐震性能に不安があるのですが、耐震補強工事を実施するほどの余裕はありません。

入居者の方に理由を話して、半年以内に立ち退いてくれるようお願いしましたが、「正当事由」がないとして拒否されました。このような場合にも、もし地震で建物が倒壊して借主に被害が及んだ場合には、損害賠償責任を負わなければならないのでしょうか?

また、「借主は耐震性がないことを承知で借りているので、地震で建物が倒壊したとしても、貸主に損害賠償をしません」との念書を書いてもらえば、実際に何かあったとしても責任を負わなくても済むのでしょうか?

倒壊
A

地震で建物が倒壊した場合、賃貸人が責任を負うのか?

賃貸人が老朽化を理由として賃借人に建物からの退去をお願いし、それを賃借人が断った後に、地震で建物が倒壊して、賃借人に損害を与えてしまった場合、やはり賃貸人は損害賠償責任を負う可能性があります。

耐震改修などに多額の金額がかかってしまう場合、賃貸人としての修繕義務(民法606条)は免除される可能性がありますが、それとは別に「工作物(建物や塀)責任」(民法717条)の規定がありますので、工作物の瑕疵(かし)によって損害を与えてしまった場合、所有者(賃貸人)は無過失責任により賠償責任を負う可能性が出てくるのです。

過去の判例から判断すると、賃貸物件が 建築時点の建築基準法の基準(耐震基準)を満たしている場合は、建物の設置に瑕疵がないと判断されますので、賃貸人は工作物責任を負いませんが、賃貸物件が建築時点の建築基準法の基準(耐震基準)を満たしていなかった場合は、建物の設置に瑕疵があると判断されますので、仮に建築業者の手抜き工事が原因であったとしても、被害者(賃借人)に対しては、所有者(賃貸人)が責任を負うことになります。

賃貸人が責任を負わない場合、または責任が軽減される場合

地震の規模が大きくて、近隣の建物が軒並み倒壊するような被害があった場合については、不可抗力として、賃貸人の責任が無くなるか、軽減される可能性はあります。

一筆をもらっておくことの効力

『地震があって建物が倒壊しても、賃貸人の責任を追及しない』との一筆(書面)を入居者に作成してもらうことについては、裁判例が見当たらないので、私見となりますが、必ずしも有効な手段ではないと思います。賃貸人の責任を一切追求しないという特約自体が、公序良俗違反や、消費者契約法を根拠として、無効であると解される可能性があるように思えます。

もちろん、賃借人が危険なことを承知の上で立ち退かなかったという証明にはなるので、全く無駄であるとも思いません。

しかし、根本的な話として、賃貸物件の耐震性に不安があるならば、やはり耐震補強をするか、立ち退き料を支払ってでも入居者に立ち退いてもらった方が、精神的には安全度が高くなるでしょう。

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神戸地裁H11.9.20  賃貸マンション大家の土地工作物責任

改正民法の規定

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