2-1 6ヶ月前の立ち退き請求(自己利用)の有効性
【賃借人】一戸建ての借主です。
大家さんから「これから息子夫婦が住むことになったので、6ヵ月以内に退去をお願いします」と言われました。賃貸借契約書を確認したところ、借主からの解約は1ヶ月前までに通知が必要で、貸主からの解約は6ヶ月前までの通知が必要との特約がありました。
大家さんは期限までに必ず立ち退いてくれと言っていますし、賃貸借契約書で決められていることだからと、立ち退き料も出す気はなさそうです。
しっかり賃料を支払っているにも関わらず、本当に6ヶ月以内に出て行かなければならないのでしょうか?
出て行かない場合は、強制的に立ち退きさせられてしまうのでしょうか?
法律(借地借家法)の適用について
建物の賃貸借契約は「借地借家法」という法律の適用を受けることになります。
「借地借家法」の条項の規定は、強行規定となっているものが多く、強行規定に該当している場合は、当事者間で法律と異なる合意があったとしても、法律の方が優先して適用されることになります。
そのため、いくら賃貸借契約書の中で特約がされていたとしても、その特約が無効になる、または有効に働かせるためには他の条件を満たさなければならない。ということが良くあります。
賃貸の基礎知識5-1『賃貸借契約に適用される法律』
借地借家法の立ち退き請求の規定について
賃貸人から、賃借人に対する立ち退き請求が認められるためには、借地借家法27条に規定される6ヶ月前の通知だけではなく、借地借家法28条で規定されるように、賃貸人の側に『正当事由』があることが必要とされています。
そのため、賃貸人が正当事由を具備していないのであれば、6ヶ月前に通知されたとしても、退去する必要はありません。
立ち退きを請求するための正当事由とは
『正当事由』とは、賃貸人がその建物を必要とする事情(自己利用の必要性)、賃借人がその建物を必要とする事情、その他の事情等を勘案して判断されますが、過去の裁判例から見ると、賃貸人が完全なる正当事由を備えていることは滅多にありません。
大抵の場合は、賃貸物件が老朽化している等の事情に加えて、賃貸人が立ち退き料を出すことで正当事由が補完され、やっと賃貸人からの退去請求が認められることになります。
なお、今回の息子夫婦が住むことになるという理由は、賃貸人がその建物を必要とする事情(自己利用)に準じて考えられそうですが、やはり、それだけでは正当事由としては不十分だと考えられます。
賃貸のトラブル事例2-2『耐震性が無いから立ち退いてくれと言われた。』
賃貸のトラブル事例2-3『立ち退き料の算定方法は?』