4-5 売買契約書の内容「手付解約特約」

手付解約特約

不動産売買契約を締結したときには、売買代金の5%〜20%くらいの手付金の授受が行われることが一般的です。

民法557条によれば、

①買主は手付金を放棄して、

②売主は手付金を返還し、なおかつ手付金と同額の金銭を買主に支払って、売買契約を解約することが出来る。

とされており、これを明確にしたものが、『手付解約特約』と呼ばれるものです。

手付解約特約に基づいて、売買契約を解約する場合、解約の理由は問われません。「他に良い物件が見つかった」でも、「急に売りたくなくなった」でも、自己中心的な理由であっても構わないものです。また、どのような理由だとしても、取引相手に手付金額以外の違約金や損害賠償金を支払う必要はありません。

 ※仲介業者に対しては仲介手数料を支払う必要があります。

手付解約の注意点

(1)相手方が契約の履行に着手した後は、手付解約は出来ません。

履行に着手とは、相手方が契約の履行に必要なことを行っている場合です。例えば、買主の希望に応じて、売主が土地の分筆をしているとか、契約内容に基づいて古家の取り壊しをしている場合、売主は履行に着手したことになります。履行の着手に至ったかどうかについての判断が難しい場合は、裁判例をもとに話し合いになります。

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2010年10月号 履行の着手についての考察
東京地裁H21.9.25 境界画定は売主の履行の着手に当たるとした事例
東京地裁H21.11.12 売主が不動産に設定した抵当権を消滅させるために借入金の全額を返済した行為は、履行の着手に当たるとされた事例
東京地裁H25.4.18 売主が買主名義の建物表題登記を行ったことが履行の着手に当たるとした事例
東京地裁H25.9.4 売主に履行の着手があったとして、買主の手付解除を認めなかった事例

(2)手付解約が出来る期限を儲けた場合、その期限を過ぎると手付解約は出来ません。

民法557条は任意規定となっていますので、当事者の合意により内容を変更することが可能です。そのため、手付解約が出来る期限を設けることも出来ます。設定した期限を過ぎてしまった場合、相手方が履行の着手に至っていなくても手付解約が出来なくなります。その場合は、違約金を支払うことによる解約となります。

 ※売主が宅建業者(不動産会社)となる場合においては、強行規定の宅建業法39条が適用されます。そのため、売買契約書で手付解約期限を設けたとしても、売主業者が履行に着手していない限り、買主である消費者の側からは手付解約を申し出ることが出来ます。

なお、違約金により解約する場合、手付解約条項は適用されません。買主が解約する場合、『手付金』『違約金』を相手に支払うのではなく、支払い済みの手付金を戻してもらい、違約金を支払います。売主が解約する場合、買主に『手付金』を返却して、さらに『違約金』を支払います。
そのため、買主から解約する場合で、手付金と、違約金の額が同額に設定されている場合は、手付解約でも、違約解約でも、実質は同じ負担になります。

売買の基礎知識4-6『違約金特約

民法の規定

宅建業法の規定

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