1-1 普通借家契約の基礎知識

普通借家契約とは

普通借家契約とは、建物の賃貸借契約の一つです。

賃貸アパート、賃貸マンション、賃貸事務所、賃貸店舗等の建物を借りる時に締結する一番スタンダードな賃貸借契約と言えます。商慣習的には「居住用」と「事業用」の2種類がありますが、法律的にはその区別はなく1種類です。

普通借家契約は、「民法」および民法の特別法である「借地借家法」の規制を受けます。「民法」は任意規定が多いため、賃貸人、賃借人で合意した事項であれば、「民法」に反する内容でも定めることができます(一部例外はあります)。一方、「借地借家法」は強行規定が多くなっていますので、「借地借家法」に規定のある事項については、賃貸人、賃借人が合意した事項についても、法律が優先されます。そのため、普通借家契約では、いわゆる契約自由の原則が成り立ちません。

なお、建物の賃貸借契約であっても、「一時使用目的の賃貸借」には、例外的に借地借家法の規定が殆ど適用されません。

賃貸の基礎知識1-5『一時使用目的の賃貸借とは

賃貸アパート

期間の定めについて

短期については、1年より短い期間を定めることは出来ません。もし定めてしまった場合は、期間の定めのない賃貸借契約として扱われます。(借地借家法29条

長期については、制限が設けられていないため何年でも可能です。また、期間を定めないことも可能です。(民法604条では、賃貸借の期間は50年を超えることは出来ないとされていますが、普通借家契約では、特別法である「借地借家法」の規定が優先されます。借地借家法29条で、民法604条の規定は建物の貸借に適用しないとされていますので、長期については制限がないということになります。)

契約様式について

賃貸借契約は、必ずしも書面を必要としませんので、法律上は諾成契約(口頭契約)でも成立します。※判例では口頭だけでは契約の成立を認めなかったものもあります。

しかし、契約書面を作成しない場合、後で契約内容を巡ってトラブルになることがありますので、通常は書面で契約を締結します。

また、宅建業者が仲介として入っている場合は、必ず書面での契約となります。

期間中の中途解約について

原則として、賃借人からも、賃貸人からも、契約期間中の解約は出来ません。

ただし、賃借人からの解約については、賃貸借契約書で定めがあれば、その条項に基づいて解約することが出来ます。

一方、賃貸人からの解約については、賃貸借契約書に特約がある場合であっても、借地借家法に反する(6ヶ月前の通知をしていない。正当事由を有していない)ものは認められません。立ち退き料などを支払うことによって、賃借人が解約に同意してくれた場合のみ可能となります。

期間満了時の更新について

普通借家契約は、賃借人が望む限り、更新することが基本になります。

もし、賃貸人から更新拒絶をしようとする場合には「期間満了6ヶ月前までの通知」&「正当事由」が必要です。

賃借人からの更新拒絶については、特に理由は不要です。

造作買取請求権について

賃借人が、賃貸人の許可を得て、取りつけた造作について、賃借人は退去時に賃貸人に時価で買い取るよう請求できます。(借地借家法33条

造作とは、電気・水道施設などの取り外しができないものや、畳や襖など個別性の高いものが当たります。なお、賃貸借契約の特約で造作買取請求権を排除することも可能です。(旧法の借家法が適用される場合、特約で排除することは出来ません)

更新料について

更新料とは、賃貸借契約更新の対価として、賃借人が賃貸人に対して支払うものです。地域や賃貸人によっては、発生しない場合もあります。

賃貸借契約締結時に、賃貸人、賃借人間で更新料の支払いについて合意があった場合、賃借人は高額過ぎなければ支払う義務があります(3.12ヵ月分の賃料相当額の更新料は有効との判例あり)。合意していなければ、そもそも支払う必要はありません。

賃貸の基礎知識2-3『「更新料」と「更新手数料」とは

更新手数料について

更新手数料または更新事務手数料とは、賃貸借契約の更新に当たって、事務作業を行う宅建業者に支払う手数料です。

事務作業を行う宅建業者と合意がある場合は支払う義務があります。合意していなければ支払う必要はありません。

賃貸の基礎知識2-3『「更新料」と「更新手数料」とは

第三者対抗要件について

第三者対抗要件とは、賃貸借物件が売却や競売により第三者の手に渡った時に、第三者に対して、賃借人が賃借権(借りる権利)を持っていることを主張できる権利です。

「賃借権の登記」or「建物の引き渡しを受けている」ことが必要ですが、「賃借権の登記」というのは一般的ではありませんので、通常は「建物の引き渡しを受けている」ことが対抗要件になります。対抗要件を満たしていない場合、もし賃貸人が賃貸物件を第三者に売却してしまった場合、賃借人は立ち退かされる恐れがあります。いわゆる「売買」は「賃貸」を破るというやつです。

対象物件が競売に掛かり、建物所有者が変わった場合について

賃貸物件への抵当権設定後に、賃借人が賃貸借契約を交わしている場合、賃借人は競落人に対抗できないので、6か月の猶予期間中に引っ越すか、競落人と新たに賃貸借契約を締結する必要があります。
元の賃貸人に預けた敷金は、元の賃貸人に返還請求することになります。競落人には請求することは出来ません。

賃貸物件への抵当権設定前に賃貸借契約を交わしている場合、賃借人は賃借権を競落人に主張することが出来るので、賃貸借契約はそのまま引き継がれ、競落人が新たな大家になります。

賃貸の基礎知識5-1『賃貸借契約に適用される法律

借地借家法の規定について

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