4-2 賃貸借契約書の内容『原状回復特約』

民法621条によれば、賃借人は賃貸借が終了したときに物件から退去する時に、物件を借りた時の『原状に復す』義務があります。

『原状に復す』とは、賃借人が自分で付属させたものを収去すること、および賃借人が故意や過失によって破損、汚損させた箇所を直すことを指していますが、これには賃借人の通常使用に起因する「畳の日焼け」、「クロスの褪色」、「家具を置いたことによる凹み」等の修理までは含まれていません。また、賃借人に責任のない事由によるもの(天災等の原因によるもの)も含まれていません。

損耗

賃借人の通常使用に起因する傷みは、一般的には「自然損耗」、「通常損耗」、「経年劣化」と呼ばれています。これらの損耗は、物件を賃貸借用として使用していれば当然起こることですので、その負担(損害)は賃貸借の対価である家賃に含まれているものと解されています。2020年4月の民法改正前も、判例でそのように判断されていましたが、民法改正後は法律に条文として記載されるようになりました。なので、自然損耗の修繕費は、賃貸人が負担することが基本的な考え方となります。

しかし、民法621条は任意規定であるため、当事者の合意があれば、内容を変更することが出来ると考えられています。一般的によくある契約内容の特約では、「入居期間に関わらず、借主は退去時に畳の表替え、クロスの張替えをする」「退去時に行うハウスクリーニングは借主負担とする」といったものがあります。

実際、これらの特約については、民法の判断だけではなく、消費者契約法の観点からも、判例で有効か無効か見解が分かれているところですが、肝心なのは、裁判を起こして自らの主張を認めてもらわない限りは、契約内容に従って処理していくことが原則ということです。
裁判を起こすのは時間、労力、費用が掛かりますので、賃借人の立場からすると、賃貸借契約を締結する時に、契約書の内容を精査し、「原状回復に関する特約」について、納得してから、契約締結に臨む必要があります。

賃貸人側の立場としては、通常損耗、経年劣化部分の修繕を負担させたいと思うなら、少なくとも、その契約内容(通常損耗部分も借主が原状回復をするということ、どの部分の責任を負うのか等)を、賃借人に明確に理解してもらう必要がありますが、現在は、消費者契約法によって、特約内容が無効とされてしまう恐れもありますので、現実的には、国交省が策定した原状回復ガイドラインに沿った、契約内容にすることが一番です。

 参考:原状回復ガイドライン 再改定版|国土交通省


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東京地裁R3.11.1 ハウスクリーニング特約は有効と認められ、また、貸主は借主に実施した報告をする義務はないとした事例


民法の規定

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