2-2 遠隔地に居住する人への重要事項説明

IT重説

遠隔地に居住する人への重要事項説明の問題点

賃貸借契約の締結に当たり、賃借人が遠隔地に居住しており、入居予定日ギリギリまで現地に来ないというケースがあります。
宅建業者が仲介に入る場合、賃貸借契約の締結前に必ず重要事項説明書を説明することになっていますので、現地に来てくれないことには賃貸借契約を締結することが出来ません。また、仲介業者自らが、重説のためだけに遠隔地に出張するのは費用的に割りに合いません。

そのような理由から、入居予定日ギリギリに賃借人が訪れるのを待ってから、重要事項説明書の説明と賃貸借契約の締結を同時にすることになることがままあります。

しかし、このやり方ですと、時に不具合が生じることがあります。

入居予定日ギリギリになって、借主から「他に良い物件が見つかったから賃貸借契約を止めます」と言われてしまうことです。

賃貸借契約の締結を強制することも出来ませんし、賃貸借契約が締結されていない以上、キャンセルをした申込者から違約金を取ることも出来ません。損害賠償も原則としては認められません。

学生用マンションなど、入居時期が限られている物件については、再募集が難しいこともありますので、賃貸人にとって死活問題になります。もちろん仲介手数料が戴けない仲介業者にとっても痛手となります。

入居直前のキャンセルを防止するためには

直前のキャンセルを防止するためには、賃貸借契約を締結しておく必要がありますが、上述したように重要事項説明が容易に実施できないことがネックとなります。

考えられる方法とすると、遠隔地に居住している賃借人に、重要事項説明書の書面を郵送し、宅地建物取引士が電話で説明をするという手が思いつきますが、この方法では宅地建物取引士証を借主に提示することが出来ませんし、説明自体も十分に行えないと考えられていることから、宅建業法に抵触すると言われています。

ただし、2017年10月から、賃貸借契約では、パソコンやテレビの端末を利用(テレビ電話、スカイプ等)してのIT重説が許可されています。
IT重説をスムーズに行うためには、専用のソフト等を用意した方が良いのが面倒ですが、合法的に重要事項説明書を行うことが出来、賃貸借契約を締結することが出来ます。賃貸借契約の締結まで至っていれば、その後に借主が心変わりしても、通常の解約と同様に違約金等を請求することが出来るようになりますので、突然のキャンセルの防止に一役買います。

なお、売買契約については、2021年3月30日に解禁されました。

 参考:売買取引のIT重説|R.E.port

IT重説の遵守事項

①双方向でやりとりできるIT環境の整備

 図面等の書類及び説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、双方が発する音声を十分に聞き取れるIT環境

②重要事項説明書等の事前送付

 宅地建物取引士が記名押印した重要事項説明書等を事前に送付。そのため、買主が複数いて、全員に重要事項説明を行う場合は、順番に行うしかありません。PDFなどのデータ送付は不可です。

③重要事項説明書等の準備とIT環境の確認

 説明の開始前に相手方の重要事項説明書の準備とIT環境を確認

④宅地建物取引士証の提示と確認

 宅地建物取引士が宅地建物取引士証を提示し、相手方が画面上で視認できたことを確認

⑤IT環境に不具合があれば中断

 説明の開始後に映像、音声に不具合があれば直ちに中断

IT重説の留意事項

①IT重説実施に関する関係者からの同意

 説明の相手方、物件の貸主等の関係者から書面等での同意取得

②相手方のIT環境の確認

 相手方がIT重説を希望した場合に相手方のIT環境を事前確認

③説明の相手方の本人確認

 相手方が契約当事者本人又はその代理人であることの確認

④必要に応じて内覧の実施

 トラブル回避のため、必要に応じて内覧の実施を勧める

⑤録画・録音した場合の対応

 録画・録音する場合は宅建業者と相手方の双方了解のうえ実施

⑥個人情報保護法に関する対応

 録画・録音した場合を含めて、関係者の個人情報が含まれるため適切な管理が必要

 参考:賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明実施マニュアル概要(平成29年9月)|国土交通省

 参考:賃貸取引に係るITを活用した重要事項説明実施マニュアル(平成29年9月)|国土交通省

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