3-7 借主が自殺をしてしまった。相続人や連帯保証人に損害賠償請求することは可能か?

Q【賃貸人】

アパートの大家です。

賃貸事業を営んでいますが、借主が賃室の中で自殺をしてしまいました。自殺があった場合、その部屋を貸し出すに当たって、次の借主にしっかりと心理的瑕疵があることを告知をしなければならないと聞いていますが、自殺があったという話をすれば、その部屋を借りる人がいなくなってしまうことが考えられます。

家賃を大幅に値下げするか、かなりの時間が経過すれば、借りてくれる人も現れるかもしれませんが、どちらにしても大きな損失となってしまいます。

亡くなられた借主の方は、お気の毒だと思いますが、相続人の方や連帯保証人に対して、損失の分の損害賠償請求をしても良いものでしょうか?

yesかno
A

賃借人は善管注意義務(善良なる注意者としての管理義務)をもって、借りた部屋を使用しなければならない義務を負っています。
物件の価値を貶める自殺という行為は、賃借人の善管注意義務違反となりますので、賃貸人は損害を受けた場合、損害賠償を請求することが可能です。その際の請求先は、相続人(相続をしている場合のみ)、または連帯保証人ということになります。

損害賠償額の算定根拠としては、幾つかの考え方あります。

賃貸不可の期間の賃料相当額の損害

損害賠償請求に当たっては、判例などを元に合理的な期間を算定する必要があります。例えば、賃貸人が「今後10年は貸せなくなる筈」と主張しても、裁判上では恐らく認められません。都会のワンルームマンションの場合、賃貸不可の期間は自殺から1年くらいが目安になります。

学生用マンションのように入居者希望者がいる時期が限られている物件だと、入学時期も考慮されることがあります。

賃料を値下げしなければ貸すことが出来ない場合の損害

[通常賃料と値下げ後の賃料の差額]×[賃料を下げなければならない期間]で計算します。

この算定についても、合理的な期間設定と、合理的な値下げ幅で計算することが必要となります。都会のワンルームマンションの場合、1年間の賃貸不可の期間の経過後、2年間は賃料半額なら貸し出せると判断されました。

その他の損害

お祓い費用等が損害として認められることもあります。

原状回復費用

原状回復費用は、自殺に関係なく、賃貸借契約の終了に伴い請求することが可能ですが、自殺の発生から、発見まで時間が空いた場合などは、建物の毀損が拡大する傾向があります。臭気が染み付くなどの状況であれば、壁や床の張替え費用なども、原状回復費用として認められることがあります。

ただし、2020年4月に民法が改正され、原状回復に定めた民法621条にて「賃借人は基本的に原状回復義務を負うが、賃借人に責任がない時は、この限りでない」とされましたので、今後は自然死に基づく原状回復費用が認められないことも考えられます。

なお、自然死があっただけで、特殊清掃をする程の特段の毀損が無ければ、通常の原状回復費用と同じ算定となります。

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東京地裁H19.8.10 単身者用アパートで自殺
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民法の規定

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