3-11 耐震補強工事は賃貸人の修繕義務と言えるのか?
【賃貸人】物件の貸主です。
古い一戸建ての賃貸借物件を貸していますが、借主から「物件が現在の耐震性能を満たしておらず、危険だから、大家さんの負担で耐震補強工事をしてもらいたい」と言われました。
古い建物であるため、今の基準に比べると、建物の耐震性能は確かに低いものとなっていますが、古い建物であることは借主も承知の上で借りた筈です。
もし耐震補強工事をするとなれば、相当の費用がかかるため、出来ればしたくないのですが、借主からの要望に応じる必要がありますか?
賃貸借物件の使用収益に差し障りがある損傷が建物にある場合、賃貸人には建物を修繕する義務があります。(民法601条、606条)
この修繕義務に、賃貸借物件の耐震性能が現在の耐震基準を満たしていない場合の耐震補強工事が含まれるのかどうかを判断する必要があります。
耐震補強工事が賃貸人の修繕義務に含まれるのか?
公的な見解は見当たりませんが、京都地裁H19.9.19の判例では、「建築基準法の基準に適合する建物と同等の耐震性能を有していないことは、賃貸借契約締結時に前提とされていたと認めるのが相当」として、賃貸人の修繕義務を否定していますので、賃貸借物件が現在の耐震基準を満たしていないことだけをもって、直ちに賃貸人に修繕義務が生じるとは言えないと考えます。
一方で、賃貸借契約締結時に、耐震性能を有していないことが前提とされていなかったのであれば、その他の状況次第で、賃貸人の修繕義務に含まれる可能性があります。
そもそも賃貸人の修繕義務がないと判断される事例
大修繕など、賃料額に比較して、不相当に過大な費用を要する修繕については、賃貸人に修繕義務が生じないとされています。
耐震補強工事をしないまま、地震で建物が倒壊した時の責任
耐震補強工事をしないまま、地震で建物が倒壊した時、賃貸人が損害賠償義務を負うかどうかについては、修繕義務とは別に考える必要があります。
過去の判例によれば、賃貸物件が 建築時点の建築基準法の基準(耐震基準)を満たしている場合は、建物の設置に瑕疵がないと判断されますので、賃貸人は工作物責任を負いませんが、賃貸物件が建築時点の建築基準法の基準(耐震基準)を満たしていなかった場合は、建物の設置に瑕疵があると判断されますので、仮に建築業者の手抜き工事が原因であったとしても、被害者(賃借人)に対しては、所有者(賃貸人)が責任を負うことが考えられます。
賃貸のトラブル事例7-2『賃貸物件が地震で倒壊し、入居者が怪我を負ったり死亡した場合、賃貸人が責任を負わなければならないのか?』
京都地裁H19.9.19 | 賃貸人の耐震補強工事義務を否定 |
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神戸地裁H11.9.20 | 賃貸マンションが地震で倒壊した時の大家の土地工作物責任 |