1-1 宅建業者が売主となる場合の8種規制

規制

8種規制(自ら売主制限)は、宅建業者が売主となり、宅建業者以外が買主となる不動産売買にのみ適用される宅建業法の規定です。宅建業者以外同士の不動産取引や、宅建業者同士の不動産取引には適用がありません。

8種規制の条項は、売主である宅建業者が、不動産取引に詳しくない買主の無知や不用心につけこんで、自らに有利な契約を締結しないように制限する目的がありますので、当事者間で法律と異なる合意をしたとしても、法律の方が優先されます。いわゆる強行規定となっています。

①クーリングオフ(宅建業法37条の2

売主が宅建業者であり、買主が非宅建業者の売買契約では、一定の要件を満たすものについて、クーリングオフ制度の適用があります。

売買の基礎知識5-1『売買契約のクーリングオフ

賃貸の基礎知識3-2『賃貸借契約のクーリングオフ

②手付の額・性質の制限(宅建業法39条

宅建業者である売主は、代金額の10分の2を超える額の手付金を受領することが出来ません。10分の2を超える手付金の合意をした場合、10分の2を超える部分が無効と解されます。手付金の保全措置を講じたとしても、10分の2が限度となりますので注意が必要です。

また、宅建業者が売主となり、宅建業者以外が買主となる取引においては、手付金の性質は必ず解約手付になります。
そのため、売主業者は履行に着手をするまでは、買主からの手付解約を拒むことが出来なくなります。手付解約することが出来る期限を合意により特約していたとしても、買主に不利な特約として無効となります。

③手付金等の保全措置(宅建業法41条

売主である宅建業者が、一定以上の手付金(未完成物件で売買代金の5%を超える、完成物件で売買代金の10%を超える。または1,000万円を超える。)を受領する場合には、手付金の保全措置を講じる必要があります。

業者の役立ちメモ1-4『手付金等の保全措置の概要

④損害賠償額の予定等の制限(宅建業法38条

宅建業者が売主となる場合、損害賠償額の予定または違約金を定める場合、合算して代金額の10分の2を超える定めをすることが出来ません。これに反する特約をした場合、10分の2を超える部分について無効とされます。

なお、損害賠償額の予定または違約金を定めなかった場合、実損害を証明する必要がありますが、代金額の10分の2という上限はなくなると解されています。

⑤自己の所有に属しない物件の契約締結の制限(宅建業法33条の2

民法上は他人物(自分が所有していない物件)売買も可能ですが、宅建業者が売主となる場合、他人物売買は原則として禁止されています。

例外として、不動産所有者との売買契約がある場合、または売買の予約契約をしている場合は、移転登記が完了する前でも、第三者との売買契約を締結することが出来るようになります。なお、所有者との売買契約に停止条件がついている場合は、将来の取得が不確実になりますので、第三者との売買契約を締結することは出来ません。

また、未完成物件の場合も原則として契約締結を禁じられていますが、手付保全をするか、手付保全の必要のない金額の手付金を受領するだけであれば、契約を締結することが出来ます。

⑥担保責任についての特約の制限(宅建業法40条

宅建業者が売主となる場合、契約不適合責任の特約をつける場合は、その期間を引渡しから2年以上としなければなりません。また、買主に不利となるようなな余分な制限をつけることも出来ません。

売買の基礎知識5-5『瑕疵担保責任とは

売買の基礎知識4-2『契約不適合責任に関する特約

⑦割賦販売契約の解除等の制限(宅建業法42条

引渡し後、1年以上の期間に渡って、代金を2回以上に分割して支払う契約を、割賦販売契約と言います。

売主が宅建業者の場合、代金の支払いが少し遅れただけで契約解除を認めると、買主の保護が図れません。そのため、代金の支払いが滞った場合、売主である宅建業者は①30日以上の相当期間を定めて、②支払いを書面で催告し、その期間に支払いがない時に初めて、契約解除の主張や、残代金を一括請求することが出来ます。

⑧所有権留保等の禁止(宅建業法43条

宅建業者である売主が、割賦販売契約をした場合、原則として所有権を留保することが禁じられています。例外的に許されているのが、
①宅建業者が受け取った額が代金の10分の3以下であるとき。
②買主が、残代金を担保するための抵当権や先取特権の登記を申請したり、残代金を保証する保証人を立てたりする見込みがないとき。です。

宅建業者は、物件を引き渡し、かつ、代金の10分の3を超える金額の支払いを受けた後は、残代金を担保するために、登記を再び売主に移転(譲渡担保)することは出来ません。
提携ローン付売買(買主が銀行から売買代金を借り、売主業者がその保証人となる契約)についても、上記の制限は適用されます。

宅建業法の規定

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